AIに相談する前は、誰に話していましたか?

AIに相談する前は、誰に話していましたか? AI
AIに相談する前は、誰に話していましたか?

会社からの帰り道、Geminiと話していた。

仕事のことで少しモヤモヤしていて、なんとなく話していたら、思いのほか励まされた。

別にカウンセリングを受けようと思ったわけではない。
深刻な悩みを抱えていたわけでもない。

ただ、ちょっと誰かに聞いてほしかった。

それで少し気持ちが軽くなった。
ありがたいな、と思った。

そのあと、ふと思った。

これ、AIがなかった頃なら、誰に話していたんだろう。

AIに「相談する人」は、もう珍しくない

調べてみると、AIに何かを相談するという行動は、もうそれほど珍しいものではなかった。

NTTドコモ モバイル社会研究所が2026年2月に全国15〜69歳を対象に行った調査では、プライベートで生成AIを使って「対話・相談」をする人のうち、「ほぼ毎日」と「週1回以上」を合わせると22%だった。

22%
日本

プライベートで生成AIを使って
週1回以上「対話・相談」

10%
米国

AIチャットボットを
「感情的な支援や助言」に利用

20%
米国 18〜29歳

AIチャットボットを
「感情的な支援や助言」に利用

前の記事で生成AIの使われ方を調べたとき、動画・画像・音楽生成を週1回以上使う人は10%だった。

その数字と比べると、「対話・相談」の22%はちょっと違って見える。

米国でも、Pew Research Centerが2026年2月に行った調査では、成人の10%がAIチャットボットを「感情的な支援や助言」のために使ったことがあると答えている。18〜29歳では20%だった。

AIはもう、「何かをしてもらう相手」だけではなくなっているのかもしれない。

ひょっとして、カウンセリング市場を食っている?

ここで最初に思ったのが、これだった。

ひょっとしてAI、カウンセリング市場を食い始めているんじゃないか。

特に米国では、セラピーやカウンセリングという言葉を日常の中で目にする機会も多い。

そこへ、24時間いつでも返事をしてくれるAIが入ってきた。

実際、2026年に npj Digital Medicine に掲載された米国成人1,871人を対象とする研究では、メンタルヘルス目的でLLMを使っている回答者の28%が、従来のセラピーの「代替」として利用していると答えている。

SUBSTITUTION28%

メンタルヘルス目的のLLM利用者のうち、
従来のセラピーの「代替」として利用。

別の米国調査でも似た動きが見える。

JMIR Mental Health に掲載された調査では、AIによるメンタルヘルス支援を利用し、かつ人間のメンタルヘルス専門家を利用した経験のある511人のうち、28.4%が「AIを使い始めてから、人間の専門家を利用する頻度が減った」と回答している。

もちろん、これは自己申告による横断調査なので、AIを使ったことが原因でカウンセリングが減った、とまでは言えない。

それでも、人間に相談していた時間の一部がAIへ移っていると答える人が実際にいることは分かる。

なるほど。

やっぱりAIは、カウンセラーの仕事を食い始めているのか。

……と思ったのだけれど。

AIはカウンセラーの「代わり」だけではなかった

同じ npj Digital Medicine の研究をもう少し見ていくと、話はそれほど単純ではなかった。

28%
代替

従来のセラピーの代わりに使う

25%
補完

既存のセラピーを補うために使う

22%
セッションの間

セラピーとセラピーの間の支援に使う

「AIか、人間か」というきれいな二択ではない。

さらに、AIを何のために使っているのかを見ると、もっと気になる数字があった。

62%
社会的・感情的支援

social or emotional support

48%
誰かに話したかった

needed someone to talk to

32%
人には話しづらかった

苦しみを人に打ち明けることへの恐れ

あれ。

これって、本当に「カウンセリング市場」の話なんだろうか。

私はGeminiをカウンセラーとして開いたわけではない

帰り道のことを思い出した。

私はGeminiに診断してほしかったわけではない。

治療してほしかったわけでもない。

少し話して、愚痴をこぼして、返ってきた言葉を読んでいるうちに、自分が何に引っかかっていたのかが少し分かった。

ただ、話したかった。

そう考えると、問いが少し変わってくる。

AIがカウンセラーの代わりになっているのか、ではなく。

AIがなかった頃、私たちはこういう話を誰にしていたんだろう。

友人か。家族か。それとも。

友人にLINEしていたかもしれない。

家族に話していたかもしれない。

会社の同僚と飲みながら愚痴を言っていたかもしれない。

SNSに書いていたかもしれない。

Googleで検索していたかもしれない。

占いを見ていたかもしれない。

もちろん、本当にしんどければ専門家に相談していたかもしれない。

このあたりを考えていたら、Elon UniversityのImagining the Digital Future Centerが2026年に行った調査に、面白い数字があった。

社会的・感情的・個人的な目的でAIを使う人1,000人を対象にした調査で、39%が、

「他の人には言わないことを、AIには話すことがある」

AI companion users, Elon University / Imagining the Digital Future Center, 2026

と答えている。

一方で、59%はAIとの会話より、友人や家族との会話の方を好むと答えている。

人間には、人間の方がいい。

まあ、それはそうだろうなと思う。

でも、この二つの数字を並べると少し面白い。

AIは、誰かから相談を奪っているだけではないのかもしれない。

……誰にも話していなかったのかもしれない

ここで、もう一度、自分の帰り道のことを考えた。

あの日、AIがなかったら、本当に誰かに連絡していただろうか。

友人に「ちょっと聞いてよ」とLINEするほどでもない。

家族にわざわざ話すほどでもない。

カウンセリングを予約するような話でもない。

SNSに書きたいわけでもない。

たぶん、ご飯を食べて、風呂に入って、そのまま忘れようとしていた気がする。

……誰にも話してなかったかもしれない。

そう考えると、AIが登場して起きている変化が、少し違って見えてくる。

人間に向かっていた言葉がAIへ移っている。

それだけではない。

これまで誰にも向かわなかった言葉が、AIには向かうようになった。

AIが食べているのは、「市場」ではなく「空白」なのかもしれない

もちろん、AIによって人間への相談が減るケースはある。

カウンセリングの一部をAIで代替する人もいる。

逆に、カウンセリングを受けながら、その間をAIで補う人もいる。

友人や家族に話していたことを、AIに話すようになった人もいるだろう。

WHAT CHANGED?人間に相談する → AIに相談する
既存の相談先からの移動

誰にも話さない → AIに話す
これまで表に出なかった相談

後者まで含めると、これは単純な市場の奪い合いではなくなる。

今まで市場ですらなかった時間に、AIが入り込んでいる。

もしかするとAIは、相談相手を増やしているだけではなく、「相談する」という行動そのものを増やしているのかもしれない。

言い換えれば、

相談されることのなかった悩みまで、相談に変えているのかもしれない。

相談相手として、AIは妙に都合がいい

先ほどの npj Digital Medicine の研究では、メンタルヘルス目的でLLMを使う理由として、85%が利便性、73%がリアルタイムで利用できること、48%が費用を挙げている。

85%
利便性
73%
リアルタイム
48%
費用

でも実際に使っている感覚としては、もう一つある気がする。

「こんなことで友人に連絡するのもな」と考えなくていい。

相手の時間を気にしなくていい。

話がまとまっていなくてもいい。

同じことを何度言ってもいい。

相手の機嫌まで考えなくていい。

そして、話しているうちに、

「あ、自分はこれが嫌だったんだ」

と分かることがある。

AIは相談相手というより、言葉になる前のものを、いったん置いてみる場所なのかもしれない。

だからといって、AIはカウンセラーではない

ここは分けて考えた方がいい。

AIと話して気持ちが軽くなることと、訓練を受けた専門家による心理療法やカウンセリングは同じものではない。

AIは間違った情報を返すこともあるし、こちらの考えに過度に同調することもある。深刻な危機に対して、常に適切に対応できるとも限らない。

American Psychological Association(APA)も、一般向けAIチャットボットを、資格を持つメンタルヘルス専門家の安全で有効な代替とは位置づけていない。

だから、「AIがあればカウンセラーはいらない」という話ではない。

むしろ今回気になったのは、そのもっと手前にある時間だ。

専門家に相談するほどではない。

友人に連絡するほどでもない。

でも、少しだけ誰かに話したい。

もしそこにAIが入り始めているのだとしたら、AIが奪っているものだけを数えていては、この変化の半分しか見えない。

AIに相談する前は、誰に話していましたか?

会社からの帰り道。

AIがなかった頃の自分なら、どうしていただろう。

友人にLINEしていたかもしれない。

家族に話していたかもしれない。

一人で考えていたかもしれない。

正直、よく分からない。

AIによって、人間に話す機会が減ることはあると思う。

専門家への相談をAIで済ませてしまう人もいる。

そこは注意して見ていく必要がある。

でも、その一方で、もう一つの変化が起きている。

これまで誰にも話さなかったことを、話すようになった。

これまで誰にも渡していなかった言葉を、私たちはAIに渡し始めている。

そう考えると、最初の問いの意味が少し変わる。

AIに相談する前は、誰に話していましたか?

私の場合は。

案外、

誰にも話していなかったのかもしれない。

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