生成AIを使う人が、とうとう半分を超えたらしい。
日本リサーチセンターの2026年6月調査では、生成AIを使ったことがある人は56.3%。現在も使っている人は50.4%だった。
2023年3月には利用経験者が3.4%だったというから、3年ちょっとでずいぶん遠くまで来たものだ。
まあ、そうだろうなとは思う。
私自身、気づけば毎日のようにAIを使っている。
でも、この「50%」という数字を眺めていたら、少し気になった。
みんな、どこまで使っているんだろう。
「使っている」だけでは、もう分からない
分からないことをChatGPTに聞く。
これも生成AIの利用だ。
仕事のメールを書かせる。会議を要約する。企画の壁打ちをする。これもそう。
さらに画像を作る人がいる。動画を作る人がいる。コードを書く人もいる。
ChatGPTだけでなく、GeminiやCopilotを使い分ける人もいるし、さらにAPIやエージェントまで組み込んで、仕事の流れそのものを変えている人もいる。
全部まとめて「生成AI利用者」である。
さすがに、ちょっと括りが大きすぎる。
そこで最初は、AI利用には「深さ」があるんじゃないかと考えた。
触ってみる。日常的に使う。何かを作る。複数のAIを使い分ける。仕事の流れに組み込む。さらに自動化する。
こう並べると、それらしい。
ところが考えているうちに、どうも違う気がしてきた。
AIの使い方は、階段ではなかった
たとえば仕事でAIを使っている人なら、画像も動画も作らないまま、ChatGPTとGeminiとCopilotを使い分けているかもしれない。
逆に、仕事ではほとんどAIを使わないのに、趣味の画像生成ではかなり深いところまで使っている人もいるだろう。
つまり、
「日常利用の次は制作、その次は複数AI」
という一本道ではない。
何に使っているのかによって、深くなる方向そのものが違う。
だとすると、AI利用を見るには単純な利用率だけでは足りない。
何人が使っているか
どのくらい使うか
何に使うか
どこまで使うか
このくらい分けて、ようやく「AIを使っている」の中身が見えてくる。
実際、日本リサーチセンターの調査でも、現在利用者の用途で最も多いのは「情報収集、リサーチ」の62.9%。一方、「画像や動画の作成・編集」も直近3か月で2.0ポイント増えている。
入口は同じAIでも、その先はもう枝分かれしている。
「作る側」まで来た人は、もう1割いる
そんなことを考えながら調べていたら、面白い数字が見つかった。
NTTドコモ モバイル社会研究所が2026年2月に行った、全国15〜69歳を対象とした調査である。
AIとの対話・相談
プライベートで週1回以上
動画・画像・音楽生成
プライベートで週1回以上
AIで初めて制作した人
現時点では大規模な国内統計を確認できず
10%。
思っていたより多い。
Stable DiffusionやMidjourneyのような個別サービスの利用率だけを見ていると、画像生成はまだ一部の人のものに見える。
でも、サービス名ではなく「AIを使って何かを生成する」という行動で見ると、すでに10人に1人程度が週に一度以上やっている。
この10%は、もともと「作る人」だったんだろうか。
デザイナーがAIを使うのと、私が絵を作るのは同じなのか
もともとPhotoshopを使っていたデザイナーが画像生成AIを使う。
これは分かりやすい。
動画制作者が生成動画を使う。プログラマーがCodexを使う。ライターがChatGPTを使って文章を書く。
これらは、すでに持っていた専門性にAIを加えたケースだ。
もともと自分がやっていたことにAIを加え、速くしたり、できる範囲を広げたりする。
でも、もう一つ別の使い方がある。
絵を描かなかった人がAIで画像を作る。
動画編集をしたことがなかった人が動画を作る。
プログラミングを仕事にしていない人が、AIと一緒にツールを作る。
これは同じ「AI利用」でも、少し意味が違う。
これは「効率化」というより、むしろ越境と呼んだ方が近いのではないか。
コードの世界では、すでに境界が動き始めている
この越境らしき動きが比較的はっきり見えるのが、プログラミングだった。
OpenAIが2026年6月に公表したCodexの利用分析を見ると、もともと開発者から普及したCodexで、非開発者の利用が急速に伸びている。
2025年8月から2026年6月初めまでに、非開発者の週間利用者は、個人利用で137倍、組織利用で189倍になった。
個人利用
非開発者の週間利用者
組織利用
非開発者の週間利用者
観測期間
OpenAIによるCodex利用分析
もちろん、ここは注意が必要だ。
「非開発者」は「プログラミング未経験者」と同じではない。
したがって、この数字を「AIによって137倍の人がプログラミングを始めた」と解釈することはできない。
それでも、実際に何をしているのかを見ると興味深い。
OpenAI社内の利用分析では、Finance / Biz Ops部門がCodexで行った仕事の31%がEngineering / Codingに分類され、Product / Marketing / Opsでも25%だった。
自動化、データ変換、ツール作成、デバッグといった、本来ならより技術的な支援を必要としていた仕事にも、非技術職が手を伸ばしている。
つまり、少なくともここでは、
「あなたは何の職種ですか」と「実際に何をしていますか」の境界がずれ始めている。
これはなかなか面白い。
AIは専門知識をいらなくするのか、それとも入口になるのか
ここからは、まだ仮説になる。
AIによる越境には、もう一段先があるんじゃないかと思う。
最初はAIにやってもらう。
「絵は描けないけど、AIなら画像を作れる」
「コードは書けないけど、AIに頼めば動くものが作れる」
それだけなら、専門知識をAIが代替したという話で終わる。
でも、何度もやっているうちに、もう少し構図をちゃんとしたい。光の当たり方を理解したい。動画のカメラワークを知りたい。このコードが何をしているのか分かりたい。
そんなことが起きないだろうか。
この経路は現時点では統計で確認された事実ではなく、今回の調査から考えた仮説。
もしそうなら、AIは専門性を消しているだけではない。
むしろ、これまで専門領域の外にいた人にとっての入口にもなっている。
……そんな気がしてきた。
ところが、その数字がない
では実際に、AIによって越境した人はどのくらいいるのか。
ここまで来ると当然、それを知りたくなる。
「AIを使う以前から、画像制作をしていましたか?」
「AIを使う以前から、プログラミングをしていましたか?」
「AIをきっかけに、その分野を自分でも学ぶようになりましたか?」
ところが今回、国内の主要な生成AI調査をいくつか探してみたが、一般人口を対象に、この「AI以前」を用途別に尋ねた大規模調査は確認できなかった。
AIを使っているか。
何に使っているか。
どのくらい使っているか。
仕事が効率化したか。
そこまでは、ずいぶん詳しく分かるようになった。
でも、
AIによって、それまでやらなかった何かを始めたのか。
そこがまだ、よく分からない。
次に知りたいのは、「何人使っているか」ではない
生成AIの利用率は50%を超えた。
ここまで来ると、利用率が60%、70%になっていくことより、私はだんだん別の数字が気になってきた。
AIを使ったことで、それまで自分の領域ではなかったことを始めた人は何人いるのか。
絵を描かなかった人が、絵を作る。
動画を作らなかった人が、動画を作る。
コードを書かなかった人が、何かを動かす。
そして、その中の何人かは、AIに全部任せるだけでは満足できなくなって、自分でも少し勉強し始めるかもしれない。
そういう人が本当に増えているのなら、生成AIが起こしている変化は「仕事を奪う」とか「仕事を速くする」だけでは、少し説明が足りない。
人が、自分にはできないと思っていた領域へ入っていく。
そんな変化も起きているのかもしれない。
ただ、それがどのくらい起きているのかは、まだ分からない。
だから今度、生成AIの利用率を見るときには、その横にもう一つ数字が欲しい。
案外、その答えの方が、生成AIが人間に何を起こしているのかを教えてくれる気がしている。



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