少し前に、「日本人の可処分時間を、生成AIはどこから奪い始めているのか」という記事を書いた。
そのとき、ひとつ気になった数字があった。
生成AIを使うようになってから、GoogleやYahoo!などの検索エンジンを使う頻度が減った、と答えた人が 41.3% いたことだ。
ICT総研が2026年5月に公表した調査の数字である。SNSが減ったという人は23.6%、人に聞くことが減った人は21.2%。この数字を見る限り、生成AIが最初に大きく食い込んでいるのは、どうやら「調べもの」の時間らしい。
では、みんなGoogleで検索しなくなって、その代わりにChatGPTやGeminiに聞くようになったのか。
なんとなく、そんなイメージを持っていた。
でも、どうもそんな単純な話ではないらしい。
買い物にもAIを使い始めたZ世代
9月4日、楽天グループがちょっと面白い調査を発表した。
対象は全国の15〜25歳の「楽天学割」ユーザー637人。2026年7月1日から8月3日にかけて行われたインターネット調査なので、「日本のZ世代全体」を代表する数字として扱うには注意が必要だ。
今回の楽天調査は、全国15〜25歳の「楽天学割」ユーザー637人を対象にしたもの。Z世代全体の代表値としてではなく、若年層の利用傾向を見る材料として扱う。
それでも、いま若い人たちがAIをどう使い始めているのかを見る材料としては興味深い。
まず、生成AIを「ほぼ毎日利用している」という人が 38.0%。
用途のトップは「勉強・学習」の62.6%。その次に「趣味に関する情報検索」が47.0%、「悩み相談やアドバイスを受ける」が30.9%と続く。
ここまでは、まあそうだろうな、という感じだった。
でも、次の「買い物」についての数字で、ちょっと引っかかった。
商品やサービスを検討・購入するときに生成AIを「常に」「頻繁に」「時々」利用する人を合わせると、54.3%。
半分を超えている。
AIに相談しながら買い物をする、という行動は、もうそれほど珍しいものではないのかもしれない。
54.3%、44.4%、そして42.1%
さらに、生成AIをどのタイミングで使うのかを見ると面白い。
出典:楽天グループ「Z世代における生成AI利用に関する調査」(2026年9月4日)
ここだけを見ると、いよいよGoogle検索も、Amazonや楽天市場の商品検索もAIに置き換わっていくのかな、と思う。
ところが、同じ調査でもうひとつ質問している。
「商品やサービスの検討および購入時に、最も信頼している情報源は何か」。
トップは生成AIではない。
検索エンジン、42.1%。
あれ、と思った。
AIはかなり使っているのに、いちばん信頼しているのは、まだ検索エンジンなのだ。
AIは使う。
しかも、商品を絞り込むところではかなり使う。
でも、最後までAIだけを信じているわけではない。
この微妙な関係が、なんだか面白い。
検索という行為が、分解され始めている
ここで、前の記事で考えたことに戻ってみる。
以前なら、何かを買おうと思ったら、
検索する → いくつかの記事を開く → 商品を見る → 比較する → 候補を絞る → もう一度検索する
みたいなことをやっていた。
というか、私自身、かなりやっている。
ブラウザにはタブが10個くらい開いていて、レビュー記事を読んで、YouTubeを見て、価格を調べて、また検索結果に戻る。
気づけば「そもそも何を調べていたんだっけ」となることもある。
検索そのものより、むしろ検索した後のウロウロしている時間のほうが長い。
そこに生成AIが入ってくると、
AIに相談する → 候補を絞る → 検索して確認する
くらいまで短くなる可能性がある。
たとえば、
「3万円くらいで、旅行に持っていける小さなカメラが欲しい」
とAIに相談する。
すると候補が3台くらい出てくる。
「なるほどね」と思いながら、結局その3台をGoogleで検索する。価格.comも見る。メーカーサイトも見る。たぶんYouTubeも見る。
……結局見るんじゃないか、という話なのだけれど、最初から10台調べるのと3台だけ調べるのでは、ずいぶん違う。
もちろん今回の楽天調査だけで、実際にみんなの購買行動がこの順番になったと証明できるわけではない。
ただ、「AIで商品を絞り込む人が多い」のに、「最も信頼する情報源は検索エンジン」という組み合わせを見ると、少なくともそんな役割分担は想像できる。
Googleがなくなる、という話ではない
これは「生成AIによってGoogle検索がなくなる」という話とは少し違う。
むしろ検索の役割が変わる、と考えたほうがしっくりくる。
AIに相談して、ある程度まで候補を絞る。
そのあと検索して、本当にその情報が合っているのかを確認する。
メーカーサイトへ行く。レビューを見る。ECサイトで価格を見る。
そんな使い方なら、検索回数は減るかもしれない。でも、検索そのものが不要になるわけではない。
「探すための検索」から「確かめるための検索」へ。
もしそんな変化が起きているのだとしたら、検索エンジンにとってはかなり大きな話だと思う。
そして、考えてみるとこれは検索だけの話でもない。
レビューサイトも、比較サイトも、YouTubeも、ECサイトもなくならない。
ただ、そこへたどり着くまでの道順が変わる。
AIが、入口に座り始めている。
AIは、もう珍しい道具ではなくなってきた
もちろん今回の楽天調査には偏りがある。
対象は15〜25歳の楽天学割ユーザー637人。日本人全体の行動として一般化することはできない。
ただ、もう少し広い調査を見ると背景も見えてくる。
日本リサーチセンターが全国20〜69歳を対象に行った2026年6月調査では、生成AIを使った経験がある人は 56.3%、現在利用している人も 50.4% に達した。
2023年3月の利用経験率は、わずか3.4%だった。
3年あまりで、ずいぶん遠くまで来た。
しかも現在利用者の用途で最も多いのは「情報収集、リサーチ」の62.9%。2025年9月の55.1%からさらに増えている。
やはり生成AIが大きく入り込んでいるのは、「何かを知りたい」と思ったあとの時間なのだろう。
奪われているのは「検索時間」ではないのかもしれない
前の記事を書いたとき、私はこう考えた。
生成AIが奪っているのは、YouTubeから何分、Googleから何分、SNSから何分、というような単純な時間ではないのではないか。
今回の数字を見て、その感覚が少し強くなった。
私たちはこれまで、ひとつの答えにたどり着くために、いろいろな場所を行ったり来たりしていた。
検索して、読む。
戻る。
別の記事を読む。
比較する。
また検索する。
誰かに聞く。
もう一度考える。
書き出してみると、けっこう忙しい。
AIが短くしているのは、この「行ったり来たり」なのかもしれない。
だとすると、生成AIをめぐる可処分時間の話は、「どのサービスが負けるのか」だけを見ていても、たぶんよく分からない。
検索は残る。
YouTubeも残る。
SNSも残る。
ECサイトも残る。
ただ、それぞれの場所へ行く回数や順番や目的が変わっていく。
生成AIは検索を消すのではなく、その手前に座り始めた。
今回の楽天の数字を見て、そんなことを考えた。



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